水谷潔の新しき地に踏み出だす

〈起爆剤としての役員〉

　成熟した役員は起爆剤のようです。役員を育てた牧師は、在任中に直接その労が報われるとは限りません。しかし、その遺産は、後任牧師に引き継がれます。そして、前任者の労の報いを、後任牧師が受けることも。特に招聘性の教会の場合は、牧師が異動し、信徒である役員が留まるのですから。プロ野球の世界で言えば、野村監督が意識改革をして、星野監督が花開かせるというパターン。

　実を結んでいる教会にお邪魔して、賞賛の言葉を伝えると、二代目以降の牧師の多くが「いいえ、前任の先生のおかげです」「前々任者の先生から引き継いできて自分は何もしていません」と語ってくれます。そう言える牧師は幸せですが、本当に幸せなのは、そう言ってもらえる「前任者」「前々任者」でしょう。というわけで、自分の在任中だけでなく、後任牧師の時代を視野に入れて、役員教育にチャレンジしてみてはどうでしょう。

　成熟した役員は、世代を超えて起爆剤になります。役員を活かせる牧師と成熟した役員の組み合わせは、最強のペアです。互いの賜物が活かされ、欠点は補われ、健全で、力ある神様の業を前進させます。しかも、そうした牧師と役員の関係性は、信徒たち、とりわけ若い世代の信徒たちの見本に。これもまた「百聞は一見に如かず」の信仰教育となります。もう、いいことずくめです。

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〈地雷となる役員〉

　一方で、二回にわたり、未熟な役員の課題を記しました。とりわけ自己中心で肉的な役員を後任牧師に残してしまうと、それは「地雷」のよう。牧師交代を超えて、教会を衰退させ、良心的な牧師を苦しめ、結ぶはずの結実を失わせます。カンボジアでは、莫大な金額を投じて、地雷撤去がされていますが、ポルポト派の埋めた地雷は、世代を超えて、国民を苦しめ続けています。同じことを教会でしないで欲しいです。

　肉の力は強く、変わることが困難なのは事実です。地雷は撤去できても、未熟な役員は撤去できません。だからと言って、召されるまで、隠退まで待つなら、その間に、次世代、次々世代は教会を去って行きます。いいえ、既に去ってしまったという教会も少なくないでしょう。

　現状打開は簡単ではなさそうです。教会の自治権のために団体が介入できない現状もあります。牧師が所属団体から守ってもらえないこと、該当役員が戒められることなく放置されることも。そうした事例を見聞きし、何度も、やりきれない思いを抱えてきました。

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〈負の遺産を避ける有望な若手教職〉

　未熟な役員を温存したまま、牧師交代をすることが、何をもたらすか、ご理解いただけたでしょうか。一旦、前回と今回に記したような役員となってしまうと、それを変えることは、至難の業。既成教会に赴任する牧師は、こうした現実が待ち受けている可能性は覚悟しなくてはならないでしょう。

　そこで、今、日本の教会で起こっていることをお知らせします。それは、こうした現状を認識している若い世代の教職者たちの動向です。待ち受ける負の遺産の故に、自らを育ててくれた所属団体から、断腸の思いで、離れていくケースを多く見るようになりました。そして、苦労を覚悟で、新規教会開拓にチャレンジします。あるいは、負の遺産を避けられる教会や団体に移ります。その多くはカタカナ教会です。

　そして、私の個人的観察では、「将来有望と思える若手」にその傾向が強いのです。私の判断が正しいなら、これは既成教団や団体が、「将来中核を担うであろう人材を流出させていること」を意味します。これは極めて深刻な事態ではないでしょうか。

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〈俯瞰的に展望をもって〉

　多分、今後、既成教会は次世代が一定数、集い継続する教会と少子高齢化して、無牧併牧、さらには閉会への向かう教会に二極化することでしょう。一方で、負の遺産を免れて成長する開拓教会が増えてくるでしょう。開拓に成功し、健全で実を結ぶ一部のカタカナ教会が正しく評価されていくことでしょう。

　牧師の皆様には、どうか、俯瞰的な視点で、次の世代への展望をもって、「牧師は辞して役員を残す」に向き合っていただければと願います。