水谷潔の新しき地に踏み出だす

　昨日から、セウォル号沈没に心を痛めたり、祈ったりです。今日になり、怒り心頭の情報を知りました。管制塔からの「脱出指示」を受けて、乗客には動かぬように指示し、（これはパニック防止や重心移動回避のために必要なのかもしれませんが）、船長と船員たちが先に脱出し、その後でようやく（脱出指示から１時間以上後）、乗客に避難準備完了の放送がされたのだそうです。

　韓国の船員法では、乗客の避難が完了するまで、船長は船に留まる責任が定められているそうです。今回の船長と船員がとった行動は法律違反なのはもちろん、職務放棄をした上、乗客を犠牲にして、自分たちの命を優先したわけで、とんでもないことです。大きな船の船長には、多くの命に対する絶大な権限が与えられているのと同時に、厳しい責任が課せられているようです。２０１２年にイタリヤの豪華客船が座礁沈没した際に、乗客を残して先に避難した船長には、懲役２６９７年が求刑されたのだとか。

 

〈大切な問いかけ〉

そこで考えたことがあります。それは・・・「教会が船なら、牧師は船長で、信徒は乗客か？」ということ。

　読者の皆さんに自問していただきたいのです。信徒の読者は、こうお考えですか？「自分は、教会という船に乗っている乗客であり、リーダーの牧師は船長」とお考えでしょうか？牧師夫妻など、教職の皆様はどうでしょうか？「教会が船なら、自分は主によって立てられた船長で、信徒たちは乗客」とお考えでしょうか？

　そうお考えなら、もし、船が沈没するように、教会が危機的状況に陥った場合については、こういう判断に至るでしょう。

 

「教会の危機に際しては、船長である牧師は、信徒を危険から守ることを最優先し、牧師は教会と共に死ぬ覚悟で対処すべき」

　牧師も信徒もそう考えるでしょう。でも、私は少し違うのではないかと感じています。教会の危機に際しては、牧師はリーダーとして対処の責任があるでしょう。しかし、それは船の船長の場合とは異なると思うのです。なぜなら、私はこう考えるからです。

「教会が船なら、イエス様が船長、牧師と信徒は船員で、求道者と未信者が乗客」

 

　教会はキリストの体であり、教会を愛し命を捨てられたことを考えるなら、イエス様が、船のオーナーであり、また、船長でしょう。牧師はリーダーであっても、船長ではなく、信徒と同じく船員でありましょう。あえて言えば、第一操縦士に相当するのでは？

　そして、信徒はキリストの体の一器官ですから、乗客ではありません。船長の指示に従って、牧師と共に、船を進める船員なのです！牧師一人は、第一操縦士ですが、役員・執事・長老らも、操縦士として舵取りに加わります。第一操縦士も、船長の指示を聞き間違えて、舵取りを誤る危険が皆無とは言い切れません。だから、集団で舵を取るのです。

 

　では、役員・執事・長老でない信徒は、「献金という乗船料」を支払って、「船の旅を楽しんでいる乗客」かと言えばそうではありません。船の整備や安全確認、乗客への各種サービス、床掃除やトイレ掃除までする「船員」なのです。

　「万人祭司」って、「牧師も信徒も船員」ということでしょ？「牧師が船長で、信徒は乗客」っていうのは、万人祭司と違うでしょう？もし、そういう船があったら、その船は、「プロテスタント号」ではないですよね？５００年ほど前に、船を乗り換えたはずなのに。

 

〈大切なおすすめ〉

　というわけで、もしかすると日本海を航行する「プロテスタント号」なる船が、沈みかけているといけないので、船の運航に関わる方々へ僭越ながら、呼びかけをさせていただきます。

　ご自分が船長だとお考えの牧師の皆様。皆様の強い責任感と献身の思いには、頭の下がる思いでございます。しかし、その責任感と献身の思いのあまり、牧師本来の職務を超えた責任を負い、御心ではない自己犠牲を払っておられないでしょうか？そこで、お勧めです。ご自身を船長ではなく、第一操縦士と位置づけられてはいかがでしょうか？

　役員たちと共に、船長であるキリストの声に聞き従い、役員らに支えられ、正しい方向への舵を取ってゆかれてはどうでしょうか？また、そのための役員教育をなされては、いかがでしょう？そして、信徒たちには、船員としての自覚を促し、船内で働くようご訓練されてはと思うのです。もちろん、これらは、少なからぬ役員や信徒がそれを嫌がり、乗客気分でいたいという厳しく困難な現実認識があっての勧めです。

 

　そして、牧師は、船長ではなく、信徒は乗客ではないのですから、船である教会が危機に瀕した時には、信徒のために、最後まで教会に留まり対処する責任があるかどうか？ついてはご一考していただきたいのです。聖書が示す「牧師」の責任範囲を超えた「船長の美学」に歩まれることはどうかと思うのです。それは、信徒からは好まれ、評価されるでしょうが、果たして聖書的でしょうか？

　愛する信徒のためとは言え、ご自身やご家族がうつ病となり、希死念慮を持ちながら、牧会現場に留まることは、神様が望まれることでしょうか？教会の問題が、夫婦関係や子どもの人格形成にまで、致命的な打撃を与えている状況で、ご自身が船の舵を取り付けることは、聖書の示す優先順位でしょうか？それは、み言葉に生きている姿と言えるでしょうか？むしろ、うつ病は心と体からの正直な警告信号、夫婦や子どもの問題は家庭からの危険信号であり、時に神様は、そのことを用いて、教職者家庭を次の働きの場へと導くこともあるのでは？とさえ思うのです。

　うつ病や深刻な家族問題などの危機が及んでいるなら、牧会現場を離れることは、決して、責任放棄や献身者失格を意味するものではないと私は思うのですが、どうでしょう？教会の危機とは言え、乗客ではない信徒のために、船長でもないご自分が、そこまでの自己犠牲を払われる聖書的正当性につきましては、ご検討いただけたらと願うのです。「船長の美学＝聖書的献身の美学」については、再考の余地があるように思えてなりません。どうか、ご検討をいただき、少しでも心身ともに健全に、主が願われるお働きを継続されるようにと切望しております。

 

　信徒の皆様におかれましては、是非とも、「自分の意識は、船員か？乗客か？」を自問していただきたく願うのです。そして、もし、乗客気分であるなら、それは御心ではありませんから、悔い改めて、船員意識への意識改革をされることかと思います。特に役員や執事・長老の皆様は、「牧師が船長」とのお考えは改めていただき、牧師と共に船長の指示を聞きとり、第一操縦士を尊重しながら、共に舵を取り船を運航させていただければと願うのです。

　一般信徒の皆様も、船の運航に際しては、船員がなすべき様々な業務がございます。そのことを覚えて、船が正しい方向へ向かって、健全かつ安全な運行ができるよう担当となった業務については、原則として、喜びと感謝をもって従事されることをお勧め申し上げます。くれぐれも、乗客気分で船の旅を楽しみながら、第一操縦士に、船の整備やトイレ掃除までさせることのないようにと願っております。

　そのような船ですと、子どもや青年たちは、誰も将来、第一操縦士になりたいとは思いません。また、他の船から呼び寄せて、着任していただいて第一操縦士も、長く働くことなく、船を去るか、過労で倒れることでしょう。

 

〈大切なお願い〉

「あなたは船長、私たちは乗客、船長は、乗客に楽しい船の旅を提供するのが仕事、私たち乗客は船の仕事はいたしません。ちゃんと乗船料は支払って経営に貢献しているのですから。」

　「いざとなったら、最後まで命がけで教会を守りなさい。船が沈みそうになったら、私たちは先に脱出し、避難しますから。なぜなら、あなたは船長で、私たちは乗客なのですから。」

　信徒の信仰姿勢は、言語化されぬメッセージとして、常に牧師に届いています。言葉には出さずとも、そういうメッセージを持つ態度をとられる牧師の身にもなってください。また、それを受け続けて疲弊する牧師の姿を毎週、見続けてながら、大人になっていく、次世代への影響もお考えいただきたいのです。

 

　今回のセウォル号沈没と責任放棄をして先に逃げた船長の情報を受けて、こんなことを考えてみました。この船のたとえが、信徒の方々に、わかりやすいイメージで、聖書的教職論や教会論を提示するお役に立てばと願っております。