水谷潔の新しき地に踏み出だす

　以前、先輩の大御所牧師が、悩みを伝えてくださったことがあります。それは「信徒が自分にものを言ってくれない」との内容。団体の長を務め、規模も大きく、長年牧会をしてきたので、「信徒が自分に、言うべきことも言ってくれなくなった」と悩んでおられたのです。

　「それでは、私の器以上に、教会が成長することがなくなってしまう」「私の欠けが教会に迷惑をかけてしまう」「妻や息子や娘は、あれこれ言ってはくれるけど、きっと、言うべきことの一割も言ってくれてないと思う」と。そうした内容であったと記憶します。

　私は、この悩みを後輩の私に語ること自体が、自己客観視できており、なおかつ、謙遜な器だと感動しました。こういう方だからこそ、団体の長に選出されるのでしょう。団体全体を見渡し責任ある判断をできるのは、自己客観視できる人物でなくてはならないでしょう。

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〈求められる牧師側の自覚〉

　私は牧師側の心がけとしては、まず、自身が普通に教会の交わりに生きることだと思っています。牧会スタイルとして信徒とは一定の距離をとの考えもあるでしょう。ただ、一定はOKでも孤立はNGだと思うのです。「指導者としての自分」が「信仰の友としての自分」を遥かに上回るのは、健全とは思いません。「牧師」である前に「信徒」としてどうかと思うのです。そうなると気が付かない間に、「独りよがり」となり、場合によっては「裸の王様」になりかねません。

 

　また、よく指摘されることですが、牧師は自分が「権威のベール」をまとっていることを自覚すべき。「無自覚に権威オーラを放っている」と表現した方がよい方も。「神に立てられていても基本的には役割」「召しの違いだけで、牧師と信徒は対等」「自分はただのオジサン、オバサン」と思っていても、信徒はそうではありません。

　年配になるほど「神様がお立てになられた権威社者」だと思っていることも多く、牧師にものを言うこと自体が、神への反逆と思えてしまうのが事実。中には、神罰が下りかねないように思っている方も。牧師には、それぞれ性格もキャラもあるのでしょうが、話しかけやすさは、あった方がよいでしょう。だからと言って、「言いたい放題言われちゃうキャラ」も考え物、この点は難しいです。

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〈牧師から信徒への語り掛け〉

　牧師は信徒に、何からの形で、意見や要望などを受け止めることを、普段から信徒にお願いすることかと。「自分はそれ無理」「そんなことされたら潰れてしまう」というメンタル弱めの牧師？やキャパシティーの小さめ牧師もいらっしゃるでしょう。

　その場合は中間管理職をさせるようで申し訳ないのですが「牧師に直接ではなく役員会に問い合わせやご意見を」も一つの方法かと。意見箱など設置して「投書は、記名で、役員会宛でで」というのもありかなと思っています。逆に、要望、質問など、あれば、「妻に」「牧師夫人に」はNGにすべきと私は考えています。

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〈歴史的経緯と今後への期待〉

　牧師と信徒がフラットな関係で緊張感なく、正直な交わりを持つことが難しい日本の現状があります。教会だけでなくすべての人間関係を「相互尊重関係」でなく「主従関係」のようにとらえがちな私たちです。

　それは、日本的な文化の影響も大きいでしょう。さらには、それを、聖書の言葉によって価値転換するのでなく、むしろ、主従関係を聖書の言葉で権威づけてきてしまってきたことに問題があるように思えてなりません。「父と母を敬え」が「聖書的親孝行」として「妻は夫に従いなさい」が「聖書的亭主関白」として教えられてきたことなどはその代表的事例でしょう。

 

　そうしたことの弊害が認識され、少しずつ変わりつつあるようにも感じています。これからの世代は、牧師と信徒の間だけでなく、牧師相互、信徒相互も、より主にあるフラットで正直な関係を築いていくだろうとの希望を持っています。そして、このことは、事の性質上、信徒から始めるのは難しいでしょうから、牧師の方から、始めていくことかと感じています。

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〈例外的な事例として〉

　残念ながら、牧師が、自己客観視ができず、独りよがりになることも。他者からのNoが聴けない牧師もいます。大抵は、牧師自身の個人的課題に原因があります。多くは、成育歴などから生じた劣等感、自己承認欲求、他者支配傾向、霊的高慢、あるいは高齢者に特徴的な硬直指向、執着心などのようにお見受けします。

　苦悩する信徒を思うと、該当牧師には、家族や同労者、信徒から指摘をされたら、認めて向き合っていただきたいと切望します。しかし、残念ながら、他者の責任にしたり、別の課題を指摘したりして、自分の課題を認めず、向き合おうとしないケースが多いのが現実だと実感しています。相談を受けることもあるのですが、こうした例外的なケースは本当に大変です。

　とても長くなり、恐縮ですが、明日からは、「説教が難しい問題」、「礼拝は伝道の場か？」など、3回にわたり、記していく予定です。