説教と説教者
説教と説教者
- 「おらぁ、ぶったまげただよ~トーマス・ロングの説教がヤバいぞ」
- 「標準的説教観って、最近の普及品だったの?」
- ひとり説教塾①~新年礼拝説教、導入部の自己評価
- ひとり説教塾②~神様についての想像の許容範囲
- ひとり説教塾③~預言者的説教の功罪
- ひとり説教塾④~説教の終わり方
- 「説教者は黒子、会衆がパフォーマー ~キェルケゴールの言葉から」
- 「礼拝説教中が眠い!①ショートコント」
- 「礼拝説教中が眠い!②思いつく原因を列挙」
- 「礼拝説教中が眠い!③デート中の会話に例えて」
- 「礼拝説教中が眠い!④説教中の双方向性」
- 「礼拝説教中が眠い!⑤~ユテコ、礼拝転落事件を語る」
- 「おはようを言わない牧師たち①」
- 「おはようを言わない牧師たち②」
- 「おはようを言わない牧師たち③」
- 「説教冒頭の『おはよう』はパースペクティヴらしいぞ」
「礼拝説教中が眠い!⑤~ユテコ、礼拝転落事件を語る」
〈今日は妄想使徒行伝〉
本日皆さんに考えていただきたいのは、「分かってくれとは言わないが、そんなにユテコが悪いのか?」ということ。ご存じない読者のために、説明しておきましょう。これは、チェッカーズのデビュー曲「ギザギザハートの子守歌」のサビの歌詞をもじったフレーズ。
それを考えていただくためにゲストにお招きしたのは、転落死ししたユテコ自身。というわけで、最終回の今日は「妄想・使徒行伝20章」。ユテコご自身に、あの礼拝転落事件の真相を語っていただきましょう。でも、皆さん、ユテコの登場です大きな拍手でお迎えしましょう!
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〈ユテコが語る当日の状況〉
(鳴りやまぬ拍手の中)こんにちは、みんな、僕の名前知っていたかな?使徒の働き20章に登場するあの青年男子さ。僕の名前はユテコっていうんだ。多分、みんなの多くは、僕の名前は知らなくても、「居眠りして3階から落ちた奴」と言えば、分かるよね。ちょっと自虐的な自己紹介になったちゃったかな。
あの日は週の初めの日で、パンを割くためにも集まったんだ。だから、礼拝なんだよ。みんなは主日の朝が礼拝らしいけど、あの頃は、主日が休みではなかったんだ。だから、僕も朝から夕方まで、働いてへとへとで、礼拝に参加したんだ。あの日はパウロ先生の説教だったしね。
みんなで食事をして、それからの礼拝だったんだ。みんなは、僕がどうして、窓枠に腰掛けたか知っているかい?聖書に理由が書いてないから、みんな、いろんな想像をしてくれてるよね。パウロ先生特別説教で超満員だったから、先輩に席を譲ったのだとか。屋上の間で、ともしばがたくさん灯してあって暑かったから、涼しい窓際に行ったとか、空気が悪いから、換気のいい窓際に座ったとかさ。
窓に腰掛けたのは、自分で、眠るなどとは微塵も思わなかったからって説もあるようだね。逆に絶対に寝ないために、あえて危険な窓枠に腰掛けたという説もあるしね。いろいろ好き勝手に想像してくれてるよね。まあ、知らんけど・・・。
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〈ユテコ、窓に座った件を語る〉
窓に座った理由は、自由に想像してくれたらいいんだ。ただ、僕が言いたいのは、眠る気はなかったってことさ。絶対寝ないようにと睡魔と真剣に戦ってはいたんだよ。でもさー。みんなわかるだろ?一日働いて夜なんだよ。もう、へとへとだったんだ。ご飯を食べてた後、暑い部屋で涼しい窓際だよー。
しかも、こんなこと言ったら叱られそうだけど、聖書に書いているから、言っちゃうけどさー。その時はパウロ先生との別れだったから、特別、話が長くてさー、夜中まで続いたんだ。
これも叱られそうだけど、聖書に書いているから、言っちゃうね。パウロ先生って、手紙では力強いんだけど、会うと弱弱しくて、話の内容はすごいんだけど、話しぶりはもう一つなんだよね。だから、催眠効果があったんだよ。これは、みんなには内緒だよー。
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〈ユテコが語る転落時とその後〉
だからさー、みんな、僕の身になって想像してみてよ。イエス様が「心は燃えていても、肉体は弱いのです」とおっしゃったとおりさ。僕だって、まさか、自分が寝るとは思わなかったよ。ウトウトしても前に倒れると思ってたんだ。ところが、みんなの知ってのとおりさ。まさかの背面からの転落だよ。多分、後頭部を地面に打ち付けたんだろうね。
ルカ医師の診断では、僕は即死だったらしいね。でも、パウロ先生が神様の力で、生き返らせてくれたんだ。(急にスギちゃん口調で)その後が、すごいんだぜ~、僕が生き返ったら、中断していた礼拝は、再開したんだぜ~。ワイルドだろ~。昔の教会ってワイルドだろ~。
結局パウロ先生は明け方まで話して、お別れしたんだ。僕はみんなに、家まで連れて行ってもらたよ。そして、みんなは僕のことで、半端なく慰められたんだ。「礼拝中に居眠りするなんて」とか「窓にすわるからだよ」とか、誰一人、僕のことを責めなかったよ。身分や年齢を超えて、心から愛し合っていたんだよ。
教会生活は最高だったなー。社会生活はきついこともあったけど、その分、教会で深い慰めをいただいていたんだよ。それはみんなも同じで、クリスチャンとして社会で生きるのは辛い戦いだったから、僕の事件は、大きな慰めになったんだ。なんたって、神様の力を目の当たりにしたし、永遠のいのちの希望をリアルに実感できたからね。
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〈ユテコからのお願い〉
だからさー。僕のことを「居眠りして3階から落ちた奴」とか言うのやめてくれないかなー。転落死は事実だよ。でも、パウロ先生のおかげで、一転、僕は12節の通り「ひとからならぬ慰め」になったんだからさ。聖書を読むみんなには、そっちの方を大切にして欲しいんだ。レポートを書いたルカ医師だって、そちらを伝えたかったんじゃないかな。
というわけで、これからは、僕のことを「居眠りして3階から落ちて死んだけど、生き返って慰めを与えた青年」とか、言って欲しんだけど。まあ、長すぎるかー。無理か―。(ユテコ退場)
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〈そんなにユテコは悪くない〉
ユテコが語ってくれたから、もうおわかりでしょう。ユテコはそんなに悪くないって。ユテコ転落事件は、「礼拝中に寝てはいけません」というお説教でも、「礼拝中に寝ると天罰で死ぬかもよ」という脅しでもありません。真摯な礼拝者が、「生理的な理由」で爆睡して転落死した事件です。そして、奇跡的癒しを経て、「教会の慰め」へと変えられたという「神様の恵みの物語」なのでしょう。
実は、私自身は、説教中の居眠りをそれほど悪いとは思っていません。というより、居眠りという外面的現象で、礼拝者を評価してはならないと考えています。居眠りする礼拝者の中には、ユテコがいるからです。真実な礼拝者も、人間ですから限界があります。意志の力で生理現象に勝てないことはあるものです。
神様は礼拝者の心を見ておられます。最初から眠ってもいいつもりで、礼拝出席しているか、眠らないように真剣に礼拝をささげようとしているかは、神様がご存知です。今日においても、「居眠りしてしまう真摯な礼拝者」は、説教中は死んだようでも主にある豊かないのちに歩み、教会の皆さんにとっての「ひとかたならぬ慰め」の存在となるのかもしれません。
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〈最後にご挨拶と感謝〉
長いシリーズにお付き合いいただきありがとうございます。「説教中が眠い!」という不謹慎なタイトルのシリーズでしたが、充実した説教や豊かな礼拝の参考になれば、望外の感謝です。