水谷潔の新しき地に踏み出だす

　創立１００年未満の教会と団体には、「伝統」などないと思っています。そして、こう考えています。あるのは「良き慣習」と「悪しきしがらみ」だけだと。

　前者は次世代に継承し、後者は次世代に残さぬよう、断ち切り、捨て去ります。ただ、前者であるか、後者であるかの判別は、時に困難で、人によって判断が異なります。なぜなら、時代の移り変わりによって、「前者が後者に変質」してしまうからです。

 

・自分の信仰経験で時計の止まっている方は、その変質についての現実認識ができません。ですから、事実が事実として伝わりません。

 

・自分の個人経験を普遍化して、絶対真理にしてしまう方は、「変質はしない」と信じてしまっています。ですから、変質の事実を決して認めません。

 

・神様との関係ではなく、「自らの業」に信仰のアイデンティティーを置く方は、業を否定されると信仰が否定されてしまいます。ですから、行為による自己義認や自己防衛のために、変質の事実を認めようとしません。

 

・ノスタルジーに生きながら、成功体験の再現を願う方は、自分の夢を諦めません。ですから、変質した事実から目を逸らして、夢を見続けようとします。しかも「信仰」という名目で。

　こういうわけですから、事実を示し、理路整然とその変質を説明し、しがらみを捨て去るべきと主張したところで、話しは通じません。事実と論理を受け止められないというよりは、受け止めないことに、決めているようです。

 

　こうした場合はむしろ、心情的な理解を試み、お気持ちを共有した上で、次世代のためにとこれまた心情的なお勧めをするのが、現実性があるようです。残念ですが、「聖書と現実と理論」よりも、「心情と夢と前例踏襲」で判断行動する方々には、忍耐の限りを尽くすしかないように感じています。

 

　こうした課題の背後にあるのは何でしょう？

　次世代に対しての責任感の欠如、

　次世代への愛の乏しさ、

　そして、自己充足的な信仰姿勢

さらには、現実逃避的で観念的な信仰理解。

 

　そんな言葉が、思い浮かびます。むしろ、本当の負の遺産は「悪しきしがらみ」でなく、こちらなのかもしれません。「聖書と現実と理論」でなく「心情と夢と前例踏襲」で判断行動する役員と中心信徒というのは、「前任牧師が後任牧師に残してしまいがちな負の遺産」と言えるでしょう。

　もっとも、この手の問題は、今に始まったことではありません。新約聖書に登場する教会にもあったようなので、時代に関係なく、向き合うべき課題として、覚悟はしなくてはならないでしょう。

 

　近年、２０代、３０代の教会教職の離職率の高さは問題となっています。いまどきのメンタリティーや当人の未熟さ、召命観の問題は大きいと思います。しかし、既成教会に赴任し、経験するここに記したような「負の遺産」も、大きな要因の一つのようにお聞きします。

「悪しきしがらみに変質したかつての良き慣習」を強制されることは、賢明で良心的な牧師にとっては、かなりの苦痛です。それに抵抗する際に生ずる心労や、時に起こる強制側勢力からの攻撃は、心を病ませるにも、転任や離職を決断させるにも、十分なものでしょう。

 

　ここ数年、私の周囲では、的確な問題意識と先見の明を持ち、成熟度が高く、賜物豊かな３０代の教職が、何人も、既成団体を去り、開拓を始めたり、所属する団体とは別の新しいタイプの教会に就任したりしています。２，３０年の慣習を伝統と称し、守らせることは、時に、次世代信徒ばかりか、次世代リーダーを去らせることにもなりかねません。

　１００歳に満たない「非伝統教派」の強みは、しがらみを持たず、自由に未来を選択できること、大胆な試行錯誤が可能なことのはず。それなのに、伝統教派をうらやんでか、「インスタントな伝統」を作り、「悪しきしがらみ」へと変質させてしまうとしたら、それは、宝の持ち腐れであり、神様の期待を裏切りかねないのでは？と危惧します。１００年未満というのは、まだ、始まったばかり。神様が伝統教派に抱いておられるのとは、異なるご期待を覚えて、それに応えられたらと願います。

　

創立１００未満の教会と団体には、「伝統」などありません。

あるのは「良き慣習」と「悪しきしがらみ」だけ。

大切なのは、その判別、そして取捨選択。

次世代を活かすも、殺すは、かなりのレベルで、そこにかかっているのでは？

　非伝統教派のすべきことは、かなり明らかだと思うのです。それは、本来の理念やスピリットに立って、後に、守るべき、常に立ち返るべき伝統となるような慣習・文化を作り、それを次世代に託していくことです。くれぐれも「良き慣習から変質した悪しきしがらみ」という「負の遺産」で次世代を苦しめ、教会から去らせ、神様の御業を衰退させないことでしょう。