水谷潔の新しき地に踏み出だす

「『宗教２世』はやめて欲しい。『カルト２世』にして欲しい」

これは、以前、友人牧師が語った言葉。

その時は、私も賛同して、言いました。

「確かに一緒にして欲しくないですからねー」と。

　伝統的宗教にも、正統的なキリスト教にも、同様の問題があるのは、承知の上。それでも、私は「カルト２世」と思ったのです。それは、親が特定の宗教を持ち、子どもに宗教的影響を与えること自体が、悪であるかのように誤解を与えるから。もう一つは、カルトにはその教義や組織自体に、支配性や人権侵害の直接的な要因があるのですが、伝統宗教はそうではないから。それで、両者が同一視されてはならないと考えたのです。

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〈やはり宗教２世かと〉

　しかし、「宗教２世」をテーマに講演依頼をいただき、以前、「だから知って欲しい宗教二世問題」（筑摩書房）と「みんなの宗教２世問題」（晶文社）を読んで、考えが変わりました。キリスト教会、特に福音派にとっては、むしろ「宗教２世」とすることに、大きな意味があると考えるに至りました。理由は三つ。

　まずは、被害者のためです。「カルト２世」と限定してしまうと、正統的とされるキリスト教会内で苦しんでいる方々が、黙殺されてしまうからです。苦しむ方々の存在自体が認識されず、既に存在する深刻な問題が、放置され続けるから。

　次に、キリスト教会内の指導者や親のためです。熱心さや信仰継承を願う思いが、無自覚に、子どもたちの健やかな成長を妨げ、人格を傷つけ歪めしまっている事実やそのリスクを自覚するためです。「カルト２世」では、他人事になってしまいます。しかし、「宗教２世」なら、自らを省みる可能性も生じますし、他者の加害も指摘しやすくなります。

　最後にキリスト教会の社会的信頼のためです。「宗教２世」との言葉の発明によって、教会は、社会の眼差しを意識するようになり、それが健全化につながると考えるからです。教会が、社会から遊離した独善的な歩みから守られ、社会での信頼や責任を考えて歩むようになるからです。

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〈賛同できないこと、願うこと〉

　私は「カルト２世」と呼ぶべきとの見解にも、一定の正当性があると思っています。たとえば、江川紹子さんなどは、そうした見解です。ただ、絶対に賛同できない理由があります。それは、一部のクリスチャンが口にする「伝道の妨げになるから」という理由。

　私は思います。そういう伝道至上主義、いいえ、「伝道効率至上主義」が、教会を「他の大切なこと」に対して盲目させ、一部の正統的な教会をカルト化させてきたのだと。日本のキリスト教会は、既に、そのことを痛い思いをして、学んできたはずだと。

　「信仰継承」という目的が、「子どもの人格の尊厳を損なう手段」によって、成し遂げられるなら、そこには、カルトと正統の区別はないでしょう。もし、未だに、「伝道の妨げになるから」との声があるなら、「そこからですか？」「過去に学んでこなかったのですか？」と問いたいです。

　他者の失敗を自らの歩みに活かしたいもの、過去の過ちを未来に活かしたいもの。発明としての新語「宗教2世」を獲得した日本社会にあって、むしろ、その言葉を「益」として受け止め、健全な宣教と教会形成、社会的にも信頼される歩みをと願っています。