水谷潔の新しき地に踏み出だす

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　現役であれ、責任移譲された引退牧師であれ、実質的なリーダーシップや影響力を持っていると、「高齢者独自の肉的欲求」が「教会全体のヴィジョン」に置き換えられる悲劇が起こり得ます。この世を去る時が近いと実感される中で、生きた証として爪痕やメモリアルを残したく願う気持ちはわからんでもありません。

　同じ残してくださるなら、整えられた会衆、成熟した役員会、適切な後継者を残していただけるとよいのですが、なかなかそうはいきません。余命が見えてくると自分の存命中に見ることができることに固執するのが人の常。ですから、賜物やカリスマ性があったり、教会に経済力があったりする場合は、「わかりやすいインスタントなもの」を残そうとお考えになるようです。

　それは立派な会堂や教会関連施設などの「箱もの」、眼を引くような伝道プロジェクトや社会事業などの「活動」、従来になかったような目新しい「神学的見解」などです。建物の建築が開始され、プロジェクトがスタートに向かい、神学上の見解は発信されます。しかし、牧師に不信感を持つ方々が起こり、その結果、成熟した古参役員の離脱、主体的判断ができる信徒たちの教会異動、教会の分裂など、外部から見れば予想通りの現象が起こります。

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　残念な出来事を受けて、「本当に神様からの夢や幻だったのか？」との疑問の声、当該牧師への責任追及を求める声が上がるかと言えば、そうでもありません。なぜなら、声を上げる人の多くは既に教会を去っているからです。

　そうなると、高齢牧師は責任を問われません。また、疑問を持つ方がいても、少数派となっています。さらには、高齢であることや、これまでの貢献と実績を思えば、責任追及に躊躇を覚えるのが人情でしょう。こうして「数と情」が聖書に優先する時、教会は真理から逸脱し始めます。さらに言えば、逸脱からの回復が困難となります。

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　こうなると、残念な結果を受けて、対処をするのは、後継牧師や役員たち、下の世代。当人は、対処する能力も体力もなく、余命も怪しいわけです。責任を認めて、対処する頃には、既に召されていることも。

　つまり、自身が結果責任を負わないのに、神からの夢と幻を主張し、教会を動かそうとするのです。いいえ、責任を問われないからこそ、無責任なことができてしまうのでしょう。

　そもそもが、目の黒いうちだけのことを考え、自分がこの世を去った後の責任は放棄して、スタートしているのです。信仰的で愛に根差したスタートではなく、自己中心で我欲に根差したスタートなのです。これは、最も悪質かつ深刻な「老害」の一つと言えるしょう。

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　もちろん、夢と幻が、本物ならいいのです。神様が責任をとってくださることでしょう。しかし、偽物であっても、当人はそれを認めて、責任を取ろうとしません。周囲も、当初は信頼してきた牧師が偽物を本物と主張するはずがないと信じてしまいます。

　その結果、苦しむのは、尻ぬぐいを押し付けられた後継牧師や役員たちです。召されていても、ご存命でも、高齢牧師を否定することはできませんから、解釈をし直して、ヴィジョンや事業などを継続しがちです。明確な再出発ができなくなる悪影響は、教会全体に及び、教会の将来を脅かします。特に親たちの分裂や困惑は、青年や子どもたちを巻き込み苦しめます。

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　心を痛めながら、また、当事者感をもって、お読みになった方も少なくないでしょう。同様の課題を抱えている読者の皆様におかれましては、こうした「無責任事例」を防止される賢い歩みをと願って止みません。

　高齢となった牧師を愛しましょう。高齢者独自の残念な面も認め受け止める大人の愛で、愛しましょう。そして、尊敬してきた牧師が、晩節を汚し、教会の将来を傷つけることないよう祈り、願っての歩みをと切望します。勇気と愛の”No”が牧師と教会の将来を守ることを思います。

　ここまで、お読みいただきありがとうございます。これらの「夢」に関連した四つの無責任事例が参考になれば、感謝です。