水谷潔の新しき地に踏み出だす

　今回から少しシリアスになります「夢」と「幻」に、時に伴う一連の無責任さは、牧師などの信仰リーダーも例外ではありません。むしろ、その無責任性がもたらす被害は甚大となります。

　牧師と言えども罪人の一人ですから、自己実現や自己承認欲求充足、劣等感一発逆転欲求に由来する自らの願望を、無意識あるいは無自覚に神様からの「夢」あるいは「幻」と称して、アピールすることもなきにしもあらず。そうした場合に聖書的根拠として用いられるのが、箴言２９：１８やピリピ２：１３ですが、この聖書箇所についての私見は既に記した通りです。

 

　会衆がそれを正しく吟味してから、教会のヴィジョンとして共有され、実行されていけばいいのですが、そうはならない教会も少なくないようです。「牧師が決めた夢と幻＝神の意志＝教会で共有して実現すべきヴィジョン」と自動的になる教会もあるようです。もし、教会員が牧師依存体質で、聖書を基準しての主体的判断を放棄しているとしたら、それは「信頼関係」なのではなく「不健全な権威関係」だと思います。教会によっては、「信徒が牧師の意向を検討、判断してはいけない」という空気があって、その空気を読むわけです。

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　また、教会員に向けて「私が全責任を取るから、承認して、進めさせて欲しい」と懇願する牧師も。そう訴えながら、具体的な責任の取り方への言及はありません。「私が全責任を取るから」が意味するのは、字義通りの覚悟ではないでしょう。その正体は、「先生がそこまでおっしゃるのだから」と信徒が折れるを狙った「計算」「駆け引き」「コントロール」だろうと、私は冷たい目で見ています。

　特に牧師の活躍で、規模が大きくなった教会には起こりがちなように観察します。これは、「会衆制」「監督制」など、教会の政治の形態には、意外と関係ないようです。このことは、リーダーである牧師が、神様と共に歩んでいない、牧師自身が教会論的な歩みを失っているとも言えるでしょう。重症化すると「御言葉の悪用による牧師の教会私物化」にまで至ります。

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　こうなると無責任性の与える被害は甚大です。ヴィジョンが達成できない責任を自分にあるとしての牧師の減給、自主退職などは、お聞きしません。逆に、達成できない責任を教会員に押し付け、さらなる祈り、奉仕、献金、献身のプレッシャーをかけるケースを見聞きします。また、「神様からのヴィジョンだから、神様が責任を取ってくださる」と実質上の責任放棄がされることもあるようです。

　政治形態に関係なく、「教会のヴィジョン」というものについては、神様の前に重大な責任を伴うことは自覚すべきだと常々思っています。その責任は、牧師、役員、信徒など、立場によって重みは違うでしょうが、キリストの体の一部である限りは、全員に求められるものだと私は考えています。

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　もっとも、多くの牧師と教会は健全で、責任あるヴィジョンが発表され、総会などで承認され共有実行されてゆきます。ヴィジョン確定のプロセスとして、牧師と役員、あるいは、会衆全体が共に、教会への神様の御心を共に祈り求めていく教会もあります。

　本稿はあくまで少数事例を扱っています。その上で、一般論として、信仰リーダーに起こりがちな誘惑と逸脱の危険と会衆側の責任を記しているにすぎません。その点はご理解の上、この事例紹介を活かしていただければ、感謝。